大阪高等裁判所 昭和32年(く)3号 決定 1958年3月29日
少年 M(昭和一六・九・一五生)
主文
原決定を取消す。
本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の要旨は、精神薄弱児で、しかも初期の非行に対し本件審判は苛酷である。今迄の非行は家庭内においてのみ行われ刃物(ナイフ)を振つたことは昭和三十二年四月に一回だけであつて、これは小遣銭要求へのゼスチユアーであると認められる。若し本人を収容するならば精神教育と職業指導を兼ねた養護施設が適切であり、少年院収容は適当ではない。少年院において本人は非行につき改悟の情が認められ、色々考えた末、もう一度親の手許において更生の道を尽してやりたいから、本人を親許へ帰して欲しい、というにある。
そこで、本件に対する虞犯保護事件記録及び少年調査記録を精査し、少年の生立、素質、知能程度、経歴、従来の行状その他諸般の事情を検討すると、なるほど一応は少年を中等少年院に送致するのが適当であると思われる節がないではない。
しかし当審で取調べたN子に対する尋問調書の記載によると、右少年は精神薄弱児であつて、家庭内において母親等に対し刃物を振り廻し、暴力の沙汰に出ることが再三あつたけれども、これは映画代や間食代を要求するゼスチユアーからであつて、未だ家庭外において犯罪を犯す虞れある程度には至つていないものと認められ、本件は実父から進んで保護処分を要請した事情は認められるけれども、右N子の供述に依るときは、今一度親許へ引取り親の愛情を以つて養育指導することを熱望しており、かたがた本人が家庭外において虞犯の嫌疑を生じた暁において、本人を少年院に送致することは必ずしも時期的に遅きに失するものとも認め難く、精神薄弱児に対しては殊に親の犠牲的愛情を以つて臨むことこそ本人の養育指導に最善のようにも考えられる等これら諸般の事情を考慮すると、本人を中等少年院に送致すとの原決定は、その処分が著しく、不当であると認められることができる。
よつて本件抗告はその理由ありとし、少年法第三三条第二項に従い主文のとおり決定する。
(裁判長判事 児島謙二 判事 畠山成伸 判事 本間末吉)
別紙(原審の保護処分決定)
○主文および理由
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
少年は△△△中学校を二年まで行つたが、昭和三十二年十一月頃から怠学を始め、保護者が注意すれば刃物を振りまわす等の暴行に及び就労しても数日と続かず、保護者の正当な監督に服しない性癖があつて、その性格環境に照らし、将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものである。
少年は知能低く(IQ六六)魯鈍、精神薄弱であるから、集団生活に耐えるために収容保護を相当と考える。
少年法第二十四条第一項第三号適用(担当調査官 小野毅)
(昭和三十三年一月十六日 大阪家庭裁判所裁判官 五味逸郎)